女性たちの失われた賃金を取り戻せるのだとしたら

女性たちがもっと受け取れるはずだった賃金の金額。失われた賃金を求めよ、という問いにどう答えを出す?

以前の記事でも触れた『私たちにはことばが必要だ』のイ・ミンギョンの新刊『失われた賃金を求めて』を読んだ。

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周知の通り、女性の賃金は男性に比べて非常に低い。

ではなぜ女性の賃金は低いのか?ということについて、根拠としてのあらゆるデータを示し、女性差別的な文言に対して斬り込んでいく。女性の賃金が低い理由には様々な要因が絡み合っている。それらを丁寧にわかりやすく”ひたすら考えていく”という姿勢で、読み解いていく。

韓国の女性差別、男女の賃金格差について書かれた本書だが、全編通して感じたのが非常によく日本と似ているということだ。いや、日本そのものだ。女性の受けてきた差別のパターンがそっくりだ。知ってる!知ってる!!知ってる!!!の連続だ。

そして、たびたび男性たちから言われる言葉すら同じだった。

例えば、非常に優秀でトップにのぼりつめた女性を指し「ほら、女性だって努力すれば高い地位に就けるんだよ。女性差別など存在しない。他の女性たちは努力や能力が足りないだけ」という言葉。

ほんのひと握りの女性が血の滲むような努力を重ね成功したからといって、女性差別がなくなったことにはならない。そう、いくら男性と同等の地位に就いた女性が存在するからといって、その他の99%の女性たちはそうなれない。

なぜか?

著者は言う。

男性たちは、自動で動くエスカレーターに乗ってどんどんフロアを上がっていく。女性たちは、停止したエスカレーターを前にして動かない階段を自力で駆け上るしかない!

しかも、男性には、時と場合によってはガラスのエレベーターが用意されている。なんというボーナスポイントだ。つまりは男というだけで「男は妻子を養うから。男でいい年齢なのに役職がないのはなんか不自然だから」といった”なんとなく”の理由で、エレベーターで一瞬でフロアを上っていく。

はて?女性たちは?

止まったエスカレーターを前にして、歩きにくいヒールを履いて動きにくい洋服に身を包み化粧をして装飾をして、本来の業務以外のあらゆることに配慮し気を揉み、男性の何倍も何十倍も何百倍も努力をして動かない階段を一歩一歩自力であがっていくしかないのだ。

妻子を養うから男性は給料が高い必要がある?

では、シングルマザーはどうだ?その理由が妥当なら、子供をひとりで養っているシングルマザーこそ率先して給料が上げられるべきだ。

しかし、現状では、シングルマザーの多くは非正規などの低賃金の仕事に従事し、育児と家事と仕事を一手に引き受けている。シングルマザーだから、子供を養っているからといって役職がついたり給料はあがったか?

いや、あがってなどいない。

つまり、男性は男性であるというだけで自動的に賃金が高くなりやすいように設定されているのだ。

それは、ごくありふれた会社員だけに言えることではない。ハリウッドスターの女性俳優の男女賃金格差の苦悩にまで本書は触れている。

他にも、作家や小説家といった芸術や文芸の分野での女性差別にも言及している。そう、女性であることはそういった芸術の分野でも不利益を被る。なぜなら、作品を評価するのは高い地位にいる「男性」だからだ。

(女性が世に出ようとするとき、男性たちに評価され認められなければならない)

鬼滅の刃の作者が女性であることは周知の事実だが・・もし彼女のペンネームが吾峠呼世晴ではなく、「山下智子」とか「斉藤なつみ」みたいなすぐに性別が女性だと推測できる名前だったら、ここまでの大ヒットに導けただろうか?とすら考えた。

それくらい「ああ、この作者女か」とあらかじめわかってしまうことは(特にジャンプという少年誌なら尚更)作品にバイアスをかけて鑑賞するきっかけにすらなってしまう。潜在的に「女の作ったものはたいしたことない。つまらない」という偏見があるからだ。

本書によると、ハリー・ポッターの作者も、女性だとオープンにしないほうがいいという出版社からのすすめで「J・K・ローリング」というペンネームにしてから、現在の地位を得るに至ったという。

きっと鬼滅の刃の作者も、そういったこと(作者が女性だとすぐにわかることは作品にとってマイナスに作用する場合があること)がわかっていたからこそ、性別不詳なペンネームにしたのではないだろうか(あくまで私の推測で実際のところはわからないが・・)

目眩がするほどの女性差別のデータの数々に、女性たちの経験の数々に、苦しくてたまらない。

それでも、当たり前のように蔓延する女性差別的な言動の何がいけないのか、どこらへんがおかしいのか、具体的に一つ一つ丁寧に読み解いていくことは、非常に重要な作業だ。

私たちは黙らないでいるために、もっと言葉を強固にする必要がある。あらゆる女性差別的文言や態度に、はっきりと「NO」を示すためには、私たちが圧倒的な言葉を持つことだ。女性差別について、深く知っていくことだ。

本書の中で著者も触れていたが、しばしば「女性はリーダーになりたがらない、野心がない。上を目指さない」といったことを言われるが、女性差別の蔓延る世の中で、その道はいばらの道とわかっている合理的な女性たちは、そちらを選んで疲弊し続けるくらいなら、さっさと高収入だったり手堅い職業の男性と結婚して(長い鎖でつながれた自由の中で)安定した日々を過ごしたい、仕事もそこそこでいいという態度になってしまっても仕方がない部分もある。

これを合理的生存戦略と言わず、なんと言う?

(だから、したたかで、ある意味賢い女性は、自らの市場価値が高い時期に【結婚とは「カネ」と「カオ」の交換であるby小倉千加子】にのっとって、さっさと条件のいい男性と結婚して生きる選択をするのだよなあ。現状、結婚制度に乗っかったほうが生きやすい社会構造になってしまっているから。女性が結婚せずに生きようとすると経済的に困窮しやすい仕組みになってしまっているから・・)

そうやって、女性に戦う前から、挑戦する前から、あきらめさせる世の中でなくなればいい。そして、戦ってきた途中であきらめざるをえない、そんな状況に多くの女性たちが数え切れないほど直面するような世の中でなくなってほしい。

それから、超人的な努力を重ねてトップにのぼりつめた一握りの女性以外の、ありふれた凡庸な99%側の私のような女性たちが、ひとりでも幸せに生きられる、そんな社会になっていくことを心の底から望んでいる。

女性が結婚しなくても、ひとりでも、たとえ離婚しても、貧困に陥らず安心安全に生きられる社会。

そんなことを、毎日毎日考えている。

最近は、以前に比べて女性たちの声が掻き消されなくなってきた。いい傾向だと思う。女性差別的言動は都度その問題点について考えていく必要があるし、そうすることで少しずつ変わっていく。

ジェンダー問題でたびたび企業広告や個人の言動が炎上したり話題になることがあるが、その度に具体的に問題点を考えていくことで、意識や行動を変えていくきっかけになるはずだ。

女性差別について根源的に考えていこうとするなら、『失われた賃金を求めて』は、男女の賃金格差という観点から、さらにもっと深く考えていくきっかけを与えてくれる本だと思った。普段から考えていたことがわかりやすく言語化されていたり、それ以上のたくさんの気づきがあった。

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フェミニズム,社会・労働問題

Posted by しがらみん