愛想笑いをやめたかったから【「女はこうあるべき」という社会規範を逸脱する】

すぐ愛想笑いをしてしまう。周囲に気を配り過剰に空気を読み、ついつい感じよく振る舞ってしまう。

そんな自分が嫌いだ。吐きそうだよ。嘔吐だ。発狂しそうだ。大嫌いだ。

ただし、それはある程度は仕方がないことだった。生存戦略だったといっていい。いつでもスマイルしててね?って男たちは思っている。加害されないために、排除されないために、立場が悪くならないために、不利益を被らないために、そうするしかなかった。

特に、私のように派遣(非正規)という圧倒的に立場が弱い雇用形態で働いていると、当然周囲に気を配って愛想笑いをし円滑な関係を築けるよう心を砕くのだ。

仕方がないことだ。ケア労働して当たり前とされる女という性別であるということのみならず、派遣社員という立場だと、必然的に愛想笑いをし、わきまえた女仕草をせざるをえなかった。

それが、たとえば女でも正社員となれば、堂々としていられる。派遣社員ほど周囲に気を遣わなくてもいられる。前提として正社員という雇用形態で守られているからだ。正社員の女性は、自分が自分でいられる%が非正規の女性と比べてアップする。とはいえ、「女であるならケア労働して当然」という社会規範からは決して逃れられない。雇用形態がなんだろうが、女のくせに生意気、わきまえろという無言の圧を感じないで過ごすことはできない。

時折、派遣社員でも、まったく周囲に気を配らず言葉も発さず無表情でひたすら自らの業務に励んでいる女性をみかける。その人の個人的な資質によるものかもしれないし、そう振る舞うことが可能なのは、業務上のポジションもある程度関係してくる。つまり他者とのコミュニケーションを要する業務だと、能面のようにしてひたすら黙々と仕事に励むことは難しい。

また、業務上密接に関わるメンバーたちの資質や性格にも左右される。つまりは、どうしたって他者に左右される。

ひとりで完結する仕事はほとんどない。ある程度他者と関わらざるを得ない。そういったときに、失礼な言葉を吐かれたとしてもついつい愛想笑いでごまかし、納得できないと思っても下手に出て慎重に言葉を選んで空気を読みすぎる自分になってしまう。

前派遣先だって、「ここで愛想笑いはしたくない」といった場面でもついつい愛想笑いしてしまったし、穏やかな雰囲気を出してしまう。特に年上の男性社員にちょっとした間違いなどを伝えるときには、非常に気を遣い言葉を選び相手のプライドを傷つけないように機嫌を損ねないように、心を砕くのだ。

ストレートに「これ違いますよ、確認してください」って言えたらどんなに楽だったろう。でも、派遣の女がそれやっちゃうと、立場が悪くなる。「あの派遣のBBAの態度なんだよ!?」ってなってしまう。最悪それが理由で契約終了になっちゃうかもしれない。雇用形態での立場が弱いこと、性別が女であることは、心とは裏腹に自らをわきまえさせるんだ。

穏やかで優しく思いやりがあって細かなところに気がついて周囲に気を配れる人。女性的と言われるような特徴の数々。

それらを演じなければ、この社会では生きづらいのだ。つまり・・こういった女性的とされる特徴の数々は、先天的に本能として女性に備わっているものではなく、社会(男性優位社会)が「女はこうであれ」と刷り込んできた社会規範に過ぎないのだ。

私は、上記にあげたような所謂女性的とされるような特性を持った人間じゃない。本来はそんな人間じゃない。面倒見なんかよくないし気が利かないしお世話好きなんかじゃないし空気もしょっちゅう読み間違える。むしろそういったケア労働は、ずっとずっとずっと苦手だった。長年、職を転々としてきて、それらを演じなければ女性労働者として不利益を被ると実体験を通して感じてきたからこそ、身につけざるを得なかったんだ。

私は、本来いつも怒り狂っているし、そりゃあもうあらゆる不条理や理不尽、特に女性差別、ミソジニーがはびこる世界に発狂しそうなんだ。それで、怒り狂ってるくせに表面上はわきまえた女になりがちな自分に吐きそうなんだよ。生存戦略としてそうせざるをえない自分に、嫌悪すらするんだよ。

もしまたどこかの職場で働くのだとして、仕事をしていく上で人間関係を円滑にするためのコミュニケーションはもちろんとるが、必要以上に愛想笑いしたり、過剰に気を遣ったり空気を読んだりすること意識的にやめられるようにしたい。

生存戦略として、わきまえた女仕草をせざるをえない自分に嫌悪している。ひとつひとつの行動のちょっとしたことから、女はこうあるべきという社会規範を逸脱していきたい。今は毎日毎日そう考えていている。

社会が、女性を抑圧し支配し「こうであれ」と男性にとって都合のよい女性像の刷り込みを続けてきたことに気づいたとき、それらから解き放たれるために、呪いを解くために、具体的な行動や意識を少しずつでもいいから変えていく。

まずは、無闇に愛想笑いしないこと、ヘラヘラ笑ってごまかさないこと、失礼な言動には毅然とした態度で臨むこと、過剰に気を遣わないこと、必要以上に優しさを安売りしないこと・・。

これらを心がけていきたい。

ただ、現代日本社会では、恐ろしいことに、上記のような態度でいると「女らしくない」「生意気な女」「思いやりのない女」「気のきかない女」などと糾弾され加害され不利益を被り立場を悪くする可能性が非常に高い。だから、加害されないためには、これらを今すぐ実行していくことは状況によっては難しい場合がある。特に非正規など弱い立場の女性はなおさらだ。

だからこそ、少しずつできるところからやっていく。

今までだったらなんの口ごたえももせず曖昧に笑ってやり過ごした失礼な言動に、ちょっとしたジャブを打つ。少しずつ少しずつ変えていく。

すぐに思うように切り返せなかったとして、いつでも強い意志を持って意識的にあらゆる言葉に対峙する心構えでいるならば、変えていける。

フェミニズム

Posted by しがらみん