あの人は決して「派遣さん」などと呼ばない

2019年1月22日

わたくしは、しがらみん。アラフォーおひとりさま薄給派遣社員だ。

さて、職場にて、自分とは別の雇用形態の人を、どのように呼ぶだろう?
当たり前のように使われる「派遣さん」という呼び方をどう思うか?

私は、今回、はじめて長期の派遣社員を約3年経験した。それまでは中小企業の正社員や、契約社員、アルバイト、期間限定の派遣など、様々な雇用形態で働いてきた。

実際に派遣社員として働いてみて、「派遣さん」という呼び方について、私なりに感じたことを書いてみたいと思う。

『派遣社員』という当事者になってみて・・

今回長期で派遣社員をやってみて感じたのが、「派遣さん」という呼び方は、当たり前のようにあるということだ。

外部委託社員の40代後半の男性。
ことあるごとに、「派遣さんたちが〜」「派遣さんに〜」「派遣さんって〜」と呼んできた。チームには4名の派遣社員がいたので、私たちを呼ぶときにやたらに「派遣さん」を連呼する。
正直、煩わしいと感じた。
彼は、「派遣さん」という言葉を何かファッション用語のように使っているのではないか?と思うほどだ。

ただ、この男性は、派遣先の正社員ではなく、IT系の外部委託社員だったので、立場上のマウンティングというよりは、ただ単に、同じく就業先の企業にとってはよそ者である我々派遣社員に親近感を抱いて「派遣さん」と連呼していた可能性もなくはなかった。要は、何にも考えてない人間という印象だった。

今回、自分が「派遣社員」という当事者になってみて感じたのは、考えることをしない人間ほど、「派遣さん」という呼び方を無意識に使うということだ。

そう・・無意識であって、そこに派遣社員を貶めようという他意はなく、ただ自然と「派遣さん」と口にする。「自然と口にする=考えてない」ってことだ(だって、少し考えたら、相手を「派遣さん」って呼ぶことに対する差別感に気づけるはずなんだ)

私は、そういった社員などに対して、特別何も思わないように努めた。「派遣さん」とひとまとめに呼んでしまうほうが楽なシーンもあるし(差別ではなく区別として、という意味で)そういうもんだと割り切って働くことにしていた(悲しいかな、そうやって割り切らないと自尊心が削られていく一方なのが派遣という働き方だ)

また、個別に私を呼ぶときに「派遣さん」などと呼んでくる社員は誰もいなかった。
(もし、個別に派遣社員を呼ぶときに、名前ではなく「派遣さん」と呼んでくる社員がいるのだとしたら、それは確実に差別と言えるだろう)

まあ、何が言いたいかというと、私自身は「派遣さん」と呼ばれることに、違和感やモヤモヤ感は拭えないものの、呼ばせておけばいいって気持ちで割り切って働いているってことなんだ(そうやって割り切らないと、心が持たないからだ)

決して「派遣さん」というフレーズを使用しない社員

そういった中で、「お、この人は一味違うな」と思う正社員が派遣先にいたので、その人について書いてみたい。

現在の派遣先(もうすぐ契約終了するけど・・)で、同じチームの正社員・東久留米さん(仮名)
同じチームでありながら、それほど深い関わりがないのだが、それでも業務上、派遣社員4名に向けてメールがたびたび送られてくる。

東久留米さんからのメールの冒頭には、派遣メンバー4名全員の名前が入れられている。
例えば「島根さん 武蔵野さん 青森さん しがらみんさん」みたいな感じだ。
わりと他の正社員からのメールだと、4名宛てのときは「派遣さん」とか「派遣の皆さま」とかになっている。
まあ、それでも仕方ないと思う。4名全員の名前を書くのは手間だろうし、そこは「派遣さん」「派遣の皆さま」みたいにひとまとめでも構わないけど・・と(「派遣社員に対する依頼」という意味で・・)

けれど、東久留米さんからのメールには、いくら派遣メンバー全員へ向けてのメールであっても、「派遣さん」「派遣の皆様」などという言葉でひとまとめにしない。
そして、メールのみならず、派遣社員4名に何かを対面で伝えるとき、まとめて「派遣さん」「派遣の皆さん」などと雇用形態で呼ばれたことが思い出せる限り一度もない。

東久留米さんとは、業務上、それほど密接な関わりがないため、あまり会話したことがないが、その点のみで(ひとまとめに派遣さんと決して呼ばない点で)ちょっとした知性・品性を感じるほどだ(まあ、本来、誰もがそうあるべきなのだが・・)

「派遣さん」という呼び方は、相手の品性をはかるバロメーター

もし、派遣社員を無意識に下にみて「派遣さん」と呼ぶ社員がいたとしても、私は、その人の品性と知性を疑うだけだ。

また、意識的に優越感を漂わせ「派遣なんか」「派遣のくせに」といった言葉を発する社員がいたとしても、その人の底の浅さと救われない魂を憐れむくらいだ。

ネットでは、わりとこの手の(派遣社員は底辺だから人間じゃない的な)文章を見かけるが、それを書いている人間の満たされない心が伝わってくるようだ・・。
(誰かを下に見て優越感に浸ったところで、あなたは一生救われないのに、なぜそれに気づかない?)

「品性」とは、貧乏とかお金持ちとか生まれた環境、育った環境とか一切関係ないように思える。
どんなに裕福な家庭に生まれ恵まれていても、どうしようもなく下劣な人間はいるし、いわゆる貧困家庭で育ったからといって、「品性がない」ってことにはならないのではないかな?

品性は、階層や身分や収入や容姿や学歴などに左右されづらいもののような気がする。品性のある人間は、決して他者を身分や階層のみで蔑まない、判断しない。個として向き合ってくれるように思える。

そういった点では、東久留米さんのちょっとした行動は、さりげない品性を感じる。言葉選びって本当大事だ。

だから、派遣社員として働いているのなら、相手を判断するときに「派遣さん」って言葉をバロメーターにしてみるとよいと思う。けっこういろんなことが見えてくるものだ・・。

そんなことを考える一方で、「派遣さん」と呼んでこない相手を品性があるだなんて思ってしまうことが、どうしようもなく悲しくもある。残念ながら「派遣社員は差別される、下に見られる」という前提があるからこそ、差別的ではない態度の相手に対して「いい人」とか思ってしまう自分に反吐が出る。

だって、派遣社員を差別したり蔑んだりする風潮がなければ、そんなこと自体考えなくていいはずなんだ。

派遣社員,社会・労働問題

Posted by しがらみん