32歳で夭折した歌人・萩原慎一郎さん

2018年6月5日

先日、ニュースウォッチ9を観ていたら、「非正規の歌人」という特集をやっていた。彼の名は、萩原慎一郎さん。昨年、32歳でこの世を去ったという。

中高時代にいじめを受け、精神的不調を抱えながら、非正規で働き続けていたという。一方、高校生の頃、短歌に出会い、その魅力に取り憑かれ、新聞や雑誌などに投稿し続け、数々の賞も受賞してきた。
歌集の出版も決まっていたが、中高時代に受けたいじめによる精神的不調が続き、昨年、32歳の若さで自死したという。

特集では、萩原さんが、同世代の人たちが結婚したり、職場に赤ちゃんを連れてきたりしているのを目の当たりにして落ち込んだ、といったようなことを言っていた、というVTRがあった。病気でなければ、いじめがなければ、自分もそっち側の輝かしい未来に満ちた幸福を手に入れられたかもしれなかったのに・・と?
そういうことなんだろうか。

とても痛ましい。
非正規について詠んだ歌なども紹介されていたが、他にも恋の歌なども詠んでいた。だから、そんな彼を「非正規の歌人」と紹介したことに、なんとなく違和感があった。

いやいやいや、非正規の小説家、非正規の画家、非正規のイラストレーター、非正規の映画監督、非正規のディレクター、非正規のプログラマー、非正規のゲームクリエイター・・いやいやいやいや、この世は非正規だらけ。もう非正規だらけなのだよ。

おそらく彼がいじめや非正規といった苦悩を抱えていたことから、番組側は「非正規の歌人」とつけたのだろうけど、どうもそういうのは、違うような気がした。
歌人は歌人なのではないかなあ。「非正規の」という枕詞はいらない。

他の歌も読んでみたいなと思って、大型書店で探したけど、在庫切れだった。私と同じように、ニュースの特集を見たひとたちが、購入していったのかもしれない。

つくづく、痛ましいと思う。
短歌の才能という「キラキラと輝くもの」の所有者だったのに。 それは、誰もが持てるものじゃないのに。結婚とか子どもとか、それらももちろん尊いだろう。イコール幸福のかたちだと思う。だけど、それら以上に、短歌の才能って、誰もが手に入れられるものじゃなかったのに。
それなのに、それなのに、なぜ自ら死んでしまったんだろう。

正社員、結婚、こども・・みたいな、いわゆる世間一般の普通なんかものともせず、短歌で突き進んでいければよかったのに。でも、そんな簡単なものじゃなかったんだろうなあと想像する。

悲しすぎる。痛ましすぎる。そして32歳だったのなら、これからまだいろんな可能性があったのではないか。
型通りのことしか言えないのだけど、ただただ悲しいと思う。

そして、いじめなどによる精神的不調は、ずっと被害者を蝕むのだろう。自ら死を選ぶ理由は、結局は他者の憶測でしかなく、死んでしまった本人にしかわからない。だから、軽々しいことは言えない。
ただ、歌集となって彼の言葉は残るのだなあ、と、そんなことを考えていた。
ちゃんと歌集を読んでみたいと思った。

考える日々

Posted by しがらみん